「誰が好き?」
 アレルヤの笑顔。刹那は黙ったまま。
「…………」
 ティエリアの無表情。刹那は。
 きょとんと、不思議そうに首を傾げていた。



誰が好き?(わたしと、あなたと、わたし、あなた)




「お前ら、恋愛について考えたことはあるか」
 仕事もなく、柔らかい雰囲気の流れている中、ロックオンは他三人のガンダムマイスターに突然の集合を言い渡した。
 何事かと集まった三人は、にやにや笑っているロックオンにそう問われ、一時沈黙した。

「ロックオン、あの……何の話?」
「だから、恋愛の話だ」
「ロックオン・ストラトス。何をふざけている?」
「別にふざけてないぜ」
「…………」

 ロックオンは無言の刹那をちらりと見やってから、話し始める。

「俺たちガンダムマイスターは、任務のため暇も何もないよな。
しかし、いやだからこそ、恋愛イベントはしっかり発展させておかなければならない。
恋愛は時に心を痛めるが、心を癒す何よりの秘宝でもある! だからこそ、恋はしなければ!」

 三人の冷めた瞳を気にせず、ロックオンは訳の分からない自己主張を言い始めた。

「お前ら、恋愛してるか」
「………………」

 彼も、みんなの緊張を和らげるためにこういった話題を出したのだろう、そう考えたアレルヤは、気を遣って苦笑混じりに発言する。

「そうだね……僕は、してるよ」
「…………ほう」

 ロックオンの瞳の奥で、怪しみの光が弾ける。
「誰に?」
「い、いや。それは直接的すぎ……」
「?」

 少し赤くなったアレルヤを見て、刹那は可愛らしく無言で首を傾げた。
 その刹那の反応を目の当たりにして、アレルヤの頬は見事に紅潮する。

 それきり俯いてしまったアレルヤを一瞬鋭い眼光で睨み、ロックオンは嘘くさい笑顔を形作った。
「じゃあ、ティエリアは?」
「そういった対象は存在しない」

 すぱっと言い切ったがしかし、じっと刹那に見つめられ、ティエリアの息が詰まる。

「……いや、いないことも、ない」
「……ほう」

 ロックオンは口元に手をあてて無駄に大袈裟に頷き、大仰な仕草で刹那を振り返った。

「じゃあ、刹那は?」
「………………」

 無言。
 だがロックオンも、一筋縄で行くなどとは最初から思っていない。ここで諦めるつもりもなかった。

「なあ、刹那?」

 赤い顔をしたアレルヤと、苦渋の表情をしたティエリアも、気になっているのは当たり前。

「刹那は、誰が好き?」
「………………」
「なあ刹那、誰が好きなんだ?」
 大きな瞳を見開いて、首を傾げる刹那。
 可愛い仕草にそれだけで泣きたくなるロックオンだが、引き下がりはしない。
「刹那?」
「……は」
「?」

 刹那が何かを呟く。耳まで届かなかった言葉に、三人は疑問符だけを返す。

「ロックオンは、誰が好き?」

 思わぬ反撃に軽く狼狽して硬直するロックオンと、少し楽しげなアレルヤとティエリア。

「誰なの、ロックオン?」
「誰だろうな」
「え、お、俺? いや、俺は、いないかなー。あははは」
「そっか」

 どこか寂しげに刹那が言う。

「ロックオン、いないのか」

「──」
 その反応は、悲しそうで、切なそうな。

「違うんだ刹那! 俺は、お前のことが──」
「俺は」

 年長者の威厳もプライドも捨てて思わず叫んだロックオンの言葉を、刹那は途中で静止する。

「俺は、ガンダムが、好き」

 刹那は少し固い笑顔を見せて、部屋からすっと出て行った。
 残ったのは、口を半開きにさせたロックオンと、溜息をついたティエリアとアレルヤ。

「ご愁傷様」
「……ふん」

 結局、ロックオンは、得るものはなにもなく。






 初00小説です。
 続きます。
 

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