兄さん。
 僕も一つ、嘘をついたよ。





嘘つき優しい兄弟 (大切だって、笑いながらでも泣いてでも言える)






 最初から、入り込む隙間がなかったとか。
 僕のことなんか眼中になかったとか。
 ごめんね。
 全然分かってなかったよ。

 僕を見る眼の空虚さは分かってた。
 何かを求める切な唇も、分かってた。
 でも、ごめんね。
 そんな事、全然分かってなかったよ。

 ただ、大好きな兄さんと一緒なら、何もいらなかったから。
 兄さんに必要なのはナナリーなんだって、知らなかったから。
 本当にごめんね。
 理解が――出来なくて。

 僕にとって唯一の兄さんにとって。
 僕なんか唯一じゃなかったってこと。
 分かってなかった。全然分かってなかったよ。

「分かってたけど、僕は、それでも良いと思ってたんだ」

 とか、そんな事、言えるはずがないでしょう……?
 物わかりの良い、兄さん想いに分かり切ったように、言えるわけがないでしょ?
 だって、僕は。


 時を止める。
 全てが、停止する。
 ルルーシュの瞳が凍りついたように、止まる。
 ロロの心臓も、止まりかけて、悲痛に叫ぶ。
 歯を食い縛る。視界が霞んだ。それでも、どうしてか。
 ……護りたくて。
 唇を、奪う。知らないだろうけれど。貴方は何も、知らないだろうけれど。
 今は、ロロよりずっと独りぼっちかもしれないルルーシュを。
 護れるのは、ロロだけという、安心する歓喜と。同時に。
 孤独であるルルーシュの、寂しげな瞳をどうしても見たくない。拒絶と。

 時間が動き出す。
 ルルーシュの口が、何かを叫ぼうとして、止まる。
 唇を奪う。心臓が、停止しかける。抑えつける。吐きそうな、眩暈。
「兄さんの、……ばか」
 カレンだけは最後に護ろうとして、自分は死のうと。
 そんな終わりを、ロロは許さない。絶対に、許したりしない。

 ルルーシュは、優しい。
 ルルーシュは、嘘をつく。
 ロロのこと、大事じゃなかったって、言ったのに。
 ロロのこと、殺そうとしていたって、言ったのに。
「ロロ……っ、やめ――」
 停止、停止、停止。聴きたくてたまらない言葉さえ、停止させて。
 ――大切じゃなかったら、制止なんてしようとしないよね。
 絶望的な苦痛に耐えながら、僅かに微笑む。
 ロロがルルーシュを想って、愛おしげに唇に触れて、笑う。

 ――兄さん、そうだよね?

 あんなに見たかった兄の笑顔が見られないことが、今は嬉しい。
 これでこいつは死んでくれるって、嗤わないのが、……嬉しい。
 軋んで壊れかけたロロを、拾い上げて抱きしめてくれた、最愛の人は。
 本当に嘘つき。本当に優しい。大好き。大好き。大好き。

 ――兄さん、僕も一つ、嘘をついたよ。

 ギアスの発動。時を止める。自分さえ止める。でも。

 ――兄さんは、止まらずに。
 ここで墜落するのは、ロロ一人で充分だ。
 もう、誰よりも苦しい貴方に、甘えたりしないから。
 ――兄さんは、生きてね。
 護るから。この、がらくたの命にかえて。
 だから、どうか。


 ナナリーを助け出すって、嘘をついた僕を、許してね……
 そして、兄さんの孤独も、拒絶も、何一つ理解らない僕を、許してね…………





 生まれなきゃ良かったなんて、思わない。
 こんなにも、満たされているのだから。








 
 話数は19話です。あまり小説らしさはないですね;
 ロロへの追悼を込めて。

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