サッカーボールを蹴るたびに。
俺はサッカーが好きなのだ、と何度も実感し直すものだが。
円堂を抱きしめるたびに。
俺は円堂が好きなのだ、と気づいては余計に実感してしまう。
俺は円堂なくして生きられない。
すべてがすべて
(君を愛してるに、直結)
「好きだ、円堂」
自室に戻ろうとした円堂を。
ぐいぐいと引っ張って自分の部屋に連れ込んだ豪炎寺は、ベッドに押し倒すと、早速愛の告白をぶつけていた。
対する反応は、
「俺も好きだぜ! 豪炎寺!」
という、いつもと特に何も変わらない言葉で、渋面になった豪炎寺に、どうしたのかと円堂は首を傾げる。
毎日のように想いを伝えるのも重いかと考え、こうして一週間に一度二人きりになっては好きだと言っているのだが、円堂の応えは芳しくない。
どころか、全く意識されていないのだ、と実感するばかりで、痛いやら哀しいやらたまらないのだ。
「そういう意味じゃないって分かってるだろ?」
シーツに小さな身体を縫い止めて、わざと囁くように耳元で言ってやるのに、ん? と返る声は淡泊そのものだ。
「俺とお前は友達だからな。それ以外の意味なんかないだろ?」
何を当たり前のことを、と言うように笑われても、それ以上に想っているのだから仕方がない。
始まりは友達で。
終わりもきっと、友達でいたかったのだろうけれど。
そううまくはいかなくて。
豪炎寺にとっていつからか、円堂の存在はもっともっと大きくなってしまっていた。
しかしこうやって友達友達と押し切られるのも毎度の展開で、その度深い後悔に苛まれているのも事実なので、敢えて豪炎寺は直球に尋ねてみた。元々、それが円堂の好むスタイルなのである。
「キスしていいか?」
「やだ」
しかし、返答はさっぱりしたものだった。しかも即答、である。
「なんで」
「友達はキスなんかしない」
「俺はお前を友達以上に想ってる」
「俺はお前を友達だと思ってる」
笑顔で言ってのける円堂は、まるで悪魔のようだった。その可愛さは天使なのに、と嘆く。
「じゃあ、無理矢理する」
「俺、そういうの好きじゃない」
「分かってる。でも、したい」
「ならどうぞ、勝手に」
呆れたような溜息と共に、両の瞼を閉じてしまう円堂。
その言葉が額面通りでないと経験上知っているからこそ、豪炎寺は冷や汗をかいて黙る。
好きにして、なんて甘えた意味ではないのだ。
何かしたら許さないけど、それで良いなら勝手にしろ、と言っているのである。
円堂は明るくて、優しくて、可愛いけれど、そのこころは本当のところとても遠い場所にある。
他人を気遣うかわりに、気遣われるのをよしとしないし。
他人を励ますかわりに、踏み込まれるのをよしとしないし。
複雑な精神面を抱えて過ごしているのだ。
それと気づいたのは、随分遅くのことだったけれど。
だからもう手遅れ、とは、どうしても思いたくない。
「お前いままで、どれだけの人数とキスしたことある?」
「七人。全員友達、だけど」
勿論そこには豪炎寺も含まれている。
他も、きっと、見知った人間がいて。
嫉妬心じゃない。
けれど、こころが鬱蒼としている。暗鬱と揺らぐ。
円堂は。
無自覚で、無鉄砲で、無防備で。
だからいつも傷つけられて、自分を守る術を知らない。
「キス、したいんだが」
「だから、どうぞ?」
「キスは二人でするものだから、それはできない」
きょとん、と眼を瞬かせた円堂は、それから少しだけ、声を立てて笑った。
じゃあして欲しくない、と言われているようで、申し訳なくて、そんな円堂が愛おしく思った。
押し倒されても何の抵抗もしない。
キスされても何も怒ったりしない。
ただ、俺は。
俺はお前なんかとしたくない、と宣言だけはするのだ。
それが円堂の、弱すぎるキーパー。たった一つの防衛ライン。
ただし、こころは絶対に守れない。
すべてがすべて、さらけ出して放置されている。
……可哀想に。
「いつかお前が俺を好きになることはあるか?」
「今だって好きだよ」
「それ以外の意味で」
「有り得ない」
「そうか。でも、好きだ」
「うん、俺も好き」
そうして、唇を奪う。
固く張り詰めた感触は、円堂のこころそのものの味がした。
元々風円ネタでしたが豪円にしてみた。何故なら10月1日は豪円の日だからです……。
王道すぎてほんと書きにくいのでこれからも当サイトでは増えなさそうですが、好きです豪円。
多分後日似たような風円がうpされると思いますが、眼を瞑ってやってください。