「お願いがあるの」
「はあ!? 突然なんだぴょん!!」
「……何」
「手伝って」


 それは、バレンタイン三日前の、ある日。





どくろのばれんたいん。







 黒曜中からの帰り道。
 立ち止まったクロームと、うざったそうな感情を態度に露わにした犬、無表情の千種。

「──要約すると、ボンゴレへのバレンタインのチョコ作りを俺たちに手伝ってほしい、と」

 千種が溜息のような声で呟く。

「うん」
「ふざけんじゃねーびょん!!」

 クロームが頷くと、犬は怒濤とした勢いで叫んだ。

「なんで俺らがそんなことしなきゃいけねーぴょん! お前なめてんのか!?」
「ごめん」

 特の感情もない様子でぺこりと頭を下げるクロームに、犬は不機嫌そうに舌打ちしてからさっさと行ってしまう。
 千種も同様に、呆れと面倒臭さを交えたような歩き方で行ってしまった。

 クロームは整った顔になんの感慨も浮かべず、しかし申し訳なさそうに俯いた。
 彼女は感情表現が苦手である。それ以外にも理由はあるだろうが、犬が不快に感じる一つの部分であるとクロームは考えていた。

「犬と千種も、一緒に作ってほしかったんだけどな」

 断られるのは予想通りだった。一人で作った方が良いかもしれないと思っていた。
 でも──

 小さく頭を振って、クロームは歩き出す。





「……ねえ」

「おわッ!! あのブス女、板チョコそのまま溶かそうとしてるぴょん!!」
「ねえ」
「まず包丁で砕いてから溶かせっての!」
「犬、」
「しかも下の水に入ってるし! ばかぴょん!」
「……何してんの?」

 後日、調理室前。
 犬と千種は、こそこそと窓で室内を覗いていた。(授業中だが、そんなことは二人に関係しない)

「別にっ、うぜーから来ただけ!」
「意味が分からない」
「立ち寄っただけぴょん!」
「心配なら手伝えばいい」
「心配!? そんなんじゃねっつの! 柿ピーこそ行けばいいだろ!!」
「…………」
 千種は黙る。犬は否定に集中、興奮して気づいていないようだが……。

「犬、後ろ」
「へ?」

「犬、千種」

   鈴が静かに鳴ったような、透き通った声。
 犬は言葉にもならない悲鳴を上げた。

「お、おおおおおおま、いつからいたぴょん!!」
「ずっと、見てたでしょ。知ってたよ」

 さらりと告げられ、絶句する犬に、千種が聞こえるくらいの声で言った。

「……彼女も、成長してるんでしょ」





 その後、開き直った犬と千種は、クロームの手伝い(どちらかというとクロームが手伝い側に回った)を徹底的に行った。
 犬は言葉遣いは荒かったがクロームに対し元々悪意を持っていたわけでなかったため、大きな衝突は無く。

「犬、上手いね。作ったことあるの?」
「うっせ気が散る。あっち行けぴょん!」

 千種は別段何かするわけでもなかったが、クロームの手つきが危なっかしいとさりげなく支えたりなどと優しい面を見せていた。

「危ない。ボール、落ちるよ」
「ありがと。千種、優しいね」

 不器用ながらのクロームの笑顔は、絶えることがなかった。





「ボス」

 声をかけるとすぐに振り向いたツナに、クロームは駆け寄った。
 二月十四日。クロームは並盛中前でツナを待っていた。

「あれ、クローム?」
「お前、十代目に何の用だ!」
 隣の獄寺に威嚇されながら、クロームは鞄から小さな紙袋を取り出す。

「これ、ボスに。私と犬と千種から」
「え! ありが……ええ! 犬と千種!?」
 驚愕の様子のツナにクロームは微笑む。
「三人で作ったの。ボス、食べてね」

 ツナは、頬を赤く染めながらクロームに頷く。大事そうに紙袋を抱えて。

「……うん! ありがと、クローム」
「うん」
「犬と千種さんにも、伝えておいて」
「うん。わかった」

 一人で作った方が、ツナに対する愛情に繋がるとは、思ったけれど。
 ──でも、きっと。

「私と同じで、ボスのこと大好きな犬と千種が」

 一緒に作ってくれたら、もっとたくさんの愛が込められると、そう感じたのだ。





 初、黒曜ボーイズ登場を果たしました。
 口調が難しいですね。というか間違っていると思います><すみませ;;
 三人が文中に作っているチョコの作り方は翔旋家直伝です。(溶かして流し込むだけという)
 バレンタイン記念の髑ツナ+@小説でした。読んでくださりありがとうございました。



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