「……なんだ、これ」
「靴箱の中から……凄いチョコの量だね、獄寺君」
「すげーな獄寺! モテモテじゃん!」
「……チョコ?」


 それは、バレンタイン当日の、ある日。





ごくでらのばれんたいん。







「バレンタインっていうのはね、女の子が好きな男の子にチョコやクッキーを贈ったりするの」

   バレンタインデー≠知らないと言う獄寺に、男の自分が説明するのもおかしい気がしたので、ツナが京子に頼んでしてもらった説明はその言葉だった。

 HR前の緩んだ空気。しかし普段とは異なった熱気が溢れている。
 こそこそと互いに耳打ちしあっている女子。そんな女子をちらちら見ている男子。
 獄寺も、京子の説明を深く思考しているのか、黙ったまま突っ立っていた。

「あ、これツナ君に」
「え! 京子ちゃんが俺に!?」
「あと、山本君と、獄寺君にも」
「俺だけじゃないのね……」


 ――瞬間だった。


「お前……!」

   獄寺が飛び跳ねるように動き、激昂の瞳で京子を睨み付けた。
 教室の空気が一斉に固まる。

「え?」

 京子はきょとんとするが、その尋常ならざる様子にびくりと震える。

「獄寺君?」
「黙れ!!」
「ちょっとどうしちゃったの獄寺君!!」

 ツナは慌てて、京子を庇うように前に出て、獄寺を見つめる。
 ツナの瞳の中に、責める色があるのに気づき、獄寺は困ったように俯いた。

「……獄寺君?」
「十代目」

 手を握られた。
 と、感じた瞬間。
 ツナは、獄寺に引っ張られ、未だ張りつめた空気の教室から飛び出した。





「……ほんと」

 校舎裏のベンチに二人で座って、白い息を吐きながらツナは溜息をつく。

「どうしちゃったの、獄寺君?」

 獄寺は、しょんぼりと項垂れた様子で俯いたままだ。ツナは怒る気力もなくして、困り顔で話しかける。

「何かあったの?」
「…………」

 こうなったら、獄寺が自分で話すまでの持久戦――とツナが考えた矢先、

「……すみません」

 獄寺がなんとか聞き取れるくらい小さな声で、謝罪を口にした。

「すみません」
「いや、そんな申し訳なさそうにされると、困る……」

 ツナは目を見開いた。
 獄寺に抱きしめられて。

「ご、ごくでらく……?」

 頬が赤くなるのを自覚しながら、ツナはされるがままにする。

「さっき、女が説明してたでしょう。女が好きな男に贈り物をする日だって」
「う、うん……」

 悲哀と沈痛を敏感に感じ取って、ツナは思わず獄寺を抱きしめ返した。
 その体温に安心したのか、獄寺は続ける。

「だから、十代目のことを、あの女がそういう風に慕っているって、思ったら」
「え……?」

「思ったら、俺、我慢できなくて」

 ――つまり。
 やきもち……?

「違うよ、獄寺君」
「え?」
「京子ちゃんの説明では確かにそう言ってたけど、仲の良い同性や異性、家族に贈り物をすることだってあるんだよ」
「そ、そうなんすか……?」
「うん。だから、京子ちゃんも俺に義理にくれたんだと思う」

 ツナは優しく獄寺の腕を外してから、一気に言った。

「獄寺君、目つぶって」
「へ?」
「いいから! 早く!」
「は、はい!」
「それから口開けて!」
「はい!」

 獄寺が言われた通りにするのを確認してから、鞄から目的のものを焦りながら取り出す。
 包装紙に包まれたそれを出して、獄寺の口に押し込んだ。

 口内に、甘い匂いが広がって、獄寺はようやく目を開く。
 咀嚼し、目の前のツナの緊張が胸に伝わって、はにかむ。

「ガトーショコラですか」
「まずい?」
「そんなわけないです。すっげえ美味しいです」
「別に俺は、母さんが作ってたの手伝っただけだから!」
「はい」
「獄寺君にあげようと思って、つくった、わけじゃ」

 可愛い恋人の様子に見惚れながら、獄寺はにっこりと微笑んだ。隙を突いて。

「十代目、味見してないっすか?」
「う、うん」
「じゃ、しましょうか」
「え?」

 唇を奪う。

 甘い香りと味が、ゆっくりと広がって、ツナは真っ赤になりながら、獄寺にぎゅうっと抱かれる。

「……ばか!」
「はい。大好きです、十代目」



 恋の味は、ずっと甘い。







 甘すぎいいいいいい!(絶叫)何この甘ったるさあああ!(黙)
 ツンデレはヒバ様と骸しゃんだけの特権ではないと思います!
 デレデレ×ツンデレ大好きです!!vVバレンタイン記念獄ツナ小説、読んでくださりありがとうございました><




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