ずっと待っていた。
 去年もそうだった。
 自分から行く勇気がなかったから、ずっと待っていた。
 今年も、それで終わるのかも知れない。

「……ばっかじゃないの」

 自分はどうしてこんなにも、


バレンタイン・リターンズ (一日も待てないオレと、一年待ったオマエ)



 来ない。
 …………。

 骸が来ない。
 去年は一日後からやって来たあの馬鹿が、今年まだやって来ない。
 同じように明日来るのかとか、考えてみても答えは見えず。
 では自分から行けば良いのではないかと。
 思っても足が竦んで動けない。
 何でか分かる? 俺は分かんないけど、ね。
 理解したくないの間違いだってことも気づいてるけど。

「何で来ないんだよ……」

 待ってなんかないよ。
 楽しみになんてしてない。
 そんな勘違い、されたら困る。

 けれど、昨日クッキーを手作りしたのは事実で。
 そういえば去年はあいつにポッキーゲームをせがまれたから結局、「仕方ないから」とチョコを手渡した。
 それを机の上に置いて、それからも集中力は途切れて。
 そういえば去年はあいつに嫌なゲームをせがまれたから結局、「仕方ないから」と渡すことができたのだと。

 助けられたともいうのか。
 自分から素直にならずに済んで。
 そう思うとやけに悔しくて、同時に胸が痛む。
 女々しいこんな想いを抱えてどうやって会いに行けばいいのか。
 獄寺やビアンキのように真っ直ぐにあれたらどんなに格好良いのかと、羨望と嫉妬ばかりが降りてきて。

 むくろ。
 骸。
 今どこにいるの?

 窓は開けてあって。
 部屋のドアだって実は一センチ開いていて。
 開けられないのは、固く閉ざされた心だけ。

「……むくろ……」


「今年こそはと意気込んで来ました。こんばんは綱吉君」
「、はい?」

 唖然とした反応を意にも介さず。
 ベッドの下から這いずるように現れたのは、先程までずっと焦がれていた一人の男だった。

「今年こそ君からの素直な気持ちを受け取ろうと思いまして。こんな場所からこんばんは」
「え……、お前。ちょっと待て。はい? え、何。なんでそこから出てくるの」
「昨日から忍び込んでいたからです」
「はああああああああああああ!?」

 おやおや、と耳栓をする骸に綱吉は絶叫する。

「だって去年は十五日にお邪魔したので、今年は十三日から」
「その選考基準は何!? ちょ、お前どんだけ変態なんだよ!! 不法侵入者!」
「気づかない君が悪いんですよ。寝顔もきちんと激写しましたから安心してください」
「安心できる要素が一つもない!」
「まあそんなことは兎も角」

 ベッドからようやく身体を取り出した骸は、怯む綱吉の顎を引き寄せ、甘ったるい表情でにっこりと笑む。

「僕の名前を、呼びましたね?」
「……あ……」
「待っていたんですよ。一年も、です」
「…………」
「ねえ、綱吉君」

 机の上の小袋に、勿論気づいているのだろう。
 それでも、片時も眼を離さずに綱吉だけを見つめ、骸は薄く妖艶に、微笑んで見せる。


「もう待ちきれません。ね? だから……」


 塞がれた唇を逃がす手段など、逃げ続けた綱吉が持ち合わせているわけもなかった。







 
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